斜方投射に関する一考察

「ブランコの靴飛ばしの距離が最大になる仰角っていくつかな」という至極まっとうなことを考えている中,空から問題が降ってきた.

 というわけで,これに関して数学的に考察してみる.

 

目算

題意からある程度の予想を立てるため,次のように一般化し,シミュレーション結果を見た後に数学的に考えることとする.

■諸元

股下:78.3 cm

発射器最大長:13.12 cm

発射平均初速度:6.0 km/h (1.67 m/s)

重力加速度g:9.80665 m/s2

■条件

諸元は20〜24歳男性の世界平均値を用いる

発射する姿勢は自然直立とする(逆立ち等は考慮しない)

空気抵抗,及び外部からの力は重力以外かからないものとする

 

地表から発射したものは仰角45°の時に到達距離が最大となる.発射速度1.67m/sで地表から飛ばすとこのような結果になる.

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地表から発射した場合の仰角と距離の関係

横軸は地表と発射方向の仰角,縦軸は到達距離を示す.

 

次に,予想を立てるため,諸元の条件で同様のシミュレーションを行ってみる.以下の図に結果を示す.

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通常発射した場合の仰角と距離の関係

45°からそれほど離れないと思っていたが,1mほど高くなるだけで水平方向の運動が大きく関わってくることがわかる.20°〜30°が最大になるようだ.

 

理論考察

本稿で数学的に事象を見ていくこととする.まず,本件の事象について数学的に整理する.

本事象は発射地点hの高さから斜方投射する現象と考えられる.そこで,初速をv_{0},仰角を\theta,到達距離をLとすると,鉛直方向及び水平方向に対して,発射してから地面に到着するまでの時間tを用いて次の式が成り立つ.

\begin{eqnarray}
h &=& v_{0} \mathrm{sin} \theta t - \frac{1}{2} g t^{2} \\
L &=& v_{0} \mathrm{cos} \theta t
\end{eqnarray}

ひとつ目の二次方程式を解くと,
\begin{eqnarray}
t = \frac{v_{0} \mathrm{sin} \theta + \sqrt{v_{0}^{2} \mathrm{sin}^{2} \theta + 2 g h}}{g}
\end{eqnarray}
であるから,これを水平方向の式に代入して,

\begin{eqnarray}
L = \frac{v_{0}^{2} \mathrm{cos} \theta}{g} \left( \mathrm{sin} \theta + \sqrt{ \mathrm{sin}^{2} \theta + \frac{2 g h} {v_{0}^{2}}} \right)
\end{eqnarray}

ここから,右辺が最大になるような\thetaの値を求めていく.
計算を簡単にするため,L及び中の変数を次のように変形し,微分しやすい形にする.

\begin{eqnarray}
N &=& \frac{2 g h}{v_{0}^{2}}\\
L' &=& \frac{g}{v_{0}^{2}} L = \mathrm{cos} \theta \left( \mathrm{sin} \theta + \sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N} \right)
\end{eqnarray}

L'\theta微分すると,次のようになる.

\begin{eqnarray}
\frac{d L'}{d \theta} &=& - \mathrm{sin} \theta  \left(\mathrm{sin} \theta + \sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta} + N \right) + \mathrm{cos} \theta \left( \mathrm{cos} \theta + \frac{\mathrm{cos} \theta\mathrm{sin} \theta}{\sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta}+N} \right) \\
&=& \frac{ \left( \mathrm{cos}^{2} \theta - \mathrm{sin}^{2} \theta \right) \left( \sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N} +\mathrm{sin} \theta \right) - N\mathrm{sin} \theta}{\sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N}} \\
&=& \frac{ \left( 1 - 2 \mathrm{sin}^{2} \theta \right) \left( \sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N} +\mathrm{sin} \theta \right) - N\mathrm{sin} \theta}{\sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N}}
\end{eqnarray} 
ここから,\sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N }\neq 0 の条件のもと,上式の分子=0となる\thetaを求めていくと,次のようになる.
\begin{eqnarray}
\left( 1 - 2 \mathrm{sin}^{2} \theta \right) \left( \sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N} +\mathrm{sin} \theta \right) - N\mathrm{sin} \theta = 0 \\
\left( 1 - 2 \mathrm{sin}^{2} \theta \right) \left( \mathrm{sin}^{2} \theta + N -\mathrm{sin}^{2} \theta \right) = N \mathrm{sin} \theta \left( \sqrt{ \mathrm{sin}^{2} \theta + N} - \mathrm{sin} \theta \right) \\
1 - 2 \mathrm{sin}^{2} \theta = \mathrm{sin} \theta \sqrt{\mathrm{sin}^{2} \theta + N} - \mathrm{sin}^{2} \theta \\
\left(1-\mathrm{sin}^{2} \theta \right)^{2} = \mathrm{sin}^{2} \theta \left(\mathrm{sin}^{2} \theta + N \right) \\
1 - \left( 2 + K \right) \mathrm{sin}^{2} \theta = 0 \\
\mathrm{sin}^{2} \theta = \frac{1}{2 + N} \\
\mathrm{cos}^{2} \theta = 1 - \mathrm{sin}^{2} \theta = 1 - \frac{1}{2 + N} = \frac{1+N}{2+N}\\
\mathrm{tan}^{2} \theta = \frac{\mathrm{sin}^{2} \theta}{\mathrm{cos}^{2} \theta}=\frac{\frac{1}{2+N}}{\frac{1+N}{2+N}}=\frac{1}{1+N}\\
\mathrm{tan} \theta = \sqrt{\frac{1}{1+\frac{2gh}{v_{0}^{2}}}}\\
\theta = \mathrm{tan}^{-1}\sqrt{\frac{1}{1+\frac{2gh}{v_{0}^{2}}}}
\end{eqnarray}
以上より,仰角が\theta = \mathrm{tan}^{-1}\sqrt{\frac{1}{1+\frac{2gh}{v_{0}^{2}}}}の時,最長距離になることがわかった.ここで諸元を代入してみると,\theta = 21.73°となる.ただし,シミュレーション結果では\theta = 23.80°である.異なる数値がでるのは,今回男性に付いているものの仰角を考えているからである.可動式であるため,理論では股下までの距離で近似するしかなく,それによって誤差がおよそ2.1°生じていると考察する.ただ,この誤差は飛ぶ距離にあまり関わりがないため,無視できる範囲であると考えて良い.

追加考察

実際発射する際には人それぞれではあるが調整が効くため,初速度による違いをシミュレーションで見てみる.他の諸元は全て同じものを使うものとし,仰角はシミュレーションにより得られた\theta = 23.80°で固定とする.

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速度と距離の関係

横軸は発射速度,縦軸は到達距離を示す.20m/sは時速に換算すると72km/hであるため人間には行えないだろうが,グラフの形をより正確に判断するために掲載する.
グラフを見ると,緩やかな放物線を描くことがわかる.また,縦軸のスケール値の違いから,遠くへ飛ばすためには角度よりも発射速度が大切であることがわかる.

まとめ

今回の事例は現代社会で使われることはないと言って過言でないが,遠投競技や消防の放水などで飛距離を伸ばしたい際に速度がいかに重要な性質を持っているのかを示せたと感じている.

謝辞

今後することのないであろう考察及び執筆を一週間ほどするきっかけをあたえてくださったへあぴんさん,その他助言をくださったらべるさん,もありさんに深く感謝いたします.また,大学生活で共闘生活を送っていただき,今回も衛星軌道上に着弾するよう発射すれば遠心力と重力がつりあい,無限に飛ばすことの出来る可能性を考慮してくださったアヲイチョークさんに深く感謝いたします.

 

以上.

 

2020年8月30日 3:12 執筆

 

 

追記

使ったシミュレーションのソースはろうと思ったけど編集方法が間違ってて折りたたみできなくて断念.今後気をつけます.

 

モノの長さによる誤差の検証

本考察ではモノの長さを無視して近似して行っていたため,モノの長さによる検証ができていない.そこで,モノの長さによって誤差ってどの程度出るのかという検証をした.他の諸元は全て同じものを使うものとし,モノの長さは0~2m(ホースとか他の用途でも考えられるように)で変化させることとする.

 

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モノの長さと到達距離の関係

 

結果,今回の事象では,僅差が勝敗をわける場合において長さは重要な要素であると言える.